革製品の扱いなどでよく耳にする「鞣す(なめす)」という言葉。
耳にしたことはあるけど詳しく知らない、という方が多いのではないでしょうか。
実際、筆者も当サイトを解説するまでは、恥ずかしながら詳しく知りませんでした。
今回は、そんな革の鞣し(なめし)の基本知識や種類、工程などを解説。
なめしの種類によって革の仕上がりは違います。
鞣しの種類ごとの特徴を知っていれば、革製品のあなたの希望にあった革製品を選べるはずです。
鞣すとは「皮から革」にするための作業
革製品の“鞣し”とは、動物の皮から製品としての「革」にするための作業。
革は本来、動物の皮からできています。
しかしそのままでは腐敗して硬くなってしまい、素材として扱えません。
そのため「なめし剤」という専用の化学物質で皮を改質し、皮の層にあるコラーゲンを定着固定。
染色や加脂なども施し、腐ることのない革にしていくというわけです。
なめしは古代エジプト時代からある技術で、歴史の深い製革技術なんです。
そしてこういった鞣しを行う製造業者を「タンナー」と呼びます。
鞣しの種類とそれぞれの特徴
一口に「なめし」といっても、製法によって3種類に分けられます。
- タンニン鞣し
- クロム鞣し
- 混合鞣し
なめしの種類によって、仕上がる革の質感も違ってきます。
鞣しごとの特徴を知り、レザー製品を選ぶときの参考にしてみてください。
【タンニン鞣し】古代から応用される植物成分のなめし
タンニン鞣しは、古代から応用されてきた伝統的な鞣し方法。
植物から抽出した渋(タンニン)を主成分とする鞣し剤を使うことから、「植物タンニン鞣し」とも呼ばれます。
そんなタンニン鞣しの特徴がこちら。
- 非常に手間暇がかかる
(なめしに数ヶ月かかることも) - 他のなめし方法より伸びや弾力性が少ない
- 熱に弱い
- 成形性がよく形をつくりやすい
- 経年変化がはっきり現れる
- ヌメ革・クラフト革・底革などに利用
タンニン鞣しは古くから応用されてきた方法で、伝統技術を重んじるタンナーの多くは植物タンニン鞣しを採用しています。
また完成に最大数ヶ月かかることから、高級レザー製品などでタンニン鞣しの皮革が使われていることが多いですね。
伸縮の少ない堅牢な性質なので、丈夫で長持ちな革製品に仕上がります。
経年変化も顕著なので、まさに「王道レザー」のための鞣し技術です。
【クロム鞣し】化学物質をつかった量産型のなめし
クロム鞣しは「塩基性硫酸クロム」という化学物質のなめし剤をつかう方法です。
1884年から確立された、比較的あたらしいなめし技術です。
クロム鞣しの特徴をまとめたものがこちら。
- 短時間で仕上がり大量生産しやすい
- 柔軟性・耐熱性・保存性・染色性にすぐれている
- しなやかで発色がいい
- 革製品の約85%がクロムベース
このように現代の革製品の8割以上は、クロム鞣しのレザーを使用。
経済性にすぐれている上に扱いやすいので、製品に取り入れやすんですね。
また染色しやすいことからクロム革は発色がよく、ファッションアイテムにもよく使われています。
【混合鞣し(コンビネーション鞣し)】別の鞣しをかけあわせる方法
《クロム鞣し後にタンニン鞣しを施す》といった方法が「混合鞣し(コンビネーション鞣し)」。
※コンビネーション鞣しの順番はタンナーや製品によって異なります。
一つの鞣しでは得られない特性を追加したいときに行います。
例えば、クロム鞣しの発色性・タンニン鞣しの経年変化のしやすいさを掛け合わせたい時などです。
それぞれのメリットを付加したレザーをつくれるので、今までにない新しい革の質感や性質が生まれます。
鞣しまでの皮革製造工程
なめしを含む皮革の製造工程は、実に多くの作業を要します。
ここからは、ポピュラーなクロム鞣しの製造工程をざっくり紹介。
身の回りのレザー製品がどうやって作られているのか見ていきましょう。
※以下の参考写真は「日本皮革産業連合会」から引用。
①水漬け〜裏打ち
まずはじめに、皮についている血や汚れを落とす</b >ために水漬けします。
皮を洗濯機で洗うようなイメージです。
ここでしっかり汚れを落とすことで、なめし剤といった薬品が浸透しやすくなります。
その後、細かな肉片や脂肪を落とす「裏打ち」という作業を行い準備完了です。
②脱毛〜分割
簡単な下処理が終わったら、以下のような工程に。
- 石灰漬け
- 脱毛
- 皮の分割
石灰乳につけることで皮のコラーゲンがほぐれるとともに、毛や余分な表皮が分解されます。
必要な皮膚層だけ残るので、あの本革特有の柔軟性が生まれるんですね。
石灰漬けの処理が終われば、加工しやすい大きさにカットしていきます。
③再石灰漬け〜浸酸
つづいてなめし剤を浸透させるための準備段階にはいります。
- 再石灰漬け
- 酵解
- 浸酸
再び石灰漬けし、コラーゲン繊維の絡みをほぐします。
また「酵解」という工程はタンパク質を分解する作業で、こうすることで革表面が滑らかに仕上がるんですね。
最後に酸性溶液につける(浸酸)ことで、なめし剤を吸収しやすくします。
④鞣し
いよいよ鞣しの作業へ。
なめし剤の入ったドラム槽やピットに皮を浸けて鞣していきます。
ここで鞣し剤と皮のコラーゲンが結合し、耐久性や耐熱性のあるレザーとなります。
⑤水絞り〜再鞣し
鞣しが終わると、なめし剤を洗い流し革の水分を絞り出していきます。
また素材によってはこの段階で革の肉面を削り、決まった厚さにカットします。
その後、用途によって再なめし。
同様のなめし剤を使うこともあれば、別の鞣し剤をつかって混合鞣ししていきます。
こうすることで製品に使える皮革へと仕上げられます。
⑥染色〜仕上げ
必要に応じて、染色や加脂を施します。
脂を加えることで、革に柔軟性や滑らかさなどの感触が生まれるんです。
最後に革の余分な水分を絞り取り、乾燥させれば素材としての皮革の完成。
その後は、製品ごとの大きさにカットしたりプラスの加工を施します。
革製品の購入時に「鞣し」もチェック
今回お伝えしたように、鞣しの種類によって革の質感は変わってきます。
レザー製品を買うときは、“どんな鞣しで仕上げられているのか”もあわせてチェックしてみてください。
そうすれば「タンニン鞣しだから経年変化を感じやすい」「クロム鞣しだから柔らかくて使いやすい」など、その革製品の特徴が読み解けます。